M3・マネタリーベース・新発10年国債利回り

・ゼロ金利にしても、景気に全く反応がない時は…

 以前、金融危機が日本であった頃、日銀はゼロ金利政策をやりましたが、景気は全く反応しませんでした。その時に政府は何をしたのかというと、金利はゼロ以下にはならないから、量的緩和と言って、お金を市場に行き渡らせるようにしました。資金をじゃぶじゃぶに市中につけたのです。

 一時は、日銀当座預金(これは、準備預金だけではありません。余ったお金もそこに置くことがあります)が30兆円になるぐらいまでに量的緩和を行いました。

 これについて、もう少し詳しくお話します。銀行は、本当はお金を貸し出しに回すか、国債を買うなどして運用したいのです。

 しかし、貸出先がない、あるいは国債を買い過ぎることも価格変動リスクがありますから、市中にじゃぶじゃぶに資金がある時には、資金余剰が発生します。

 こういうときは、他行も資金が余っているので、預かってくれません。そうして行き場がなくなったお金は、日銀当座預金に預けます。日銀当座預金は、金利はつきませんが、預かってはくれるので、余ってしまってどうしようもなくなったらここに預けるのです。

 もう本当にお金が余ってしまったら、日銀当座預金に預けます。そして、余ってしまったお金が日銀に還流していって30兆円になるくらいに、じゃぶじゃぶに資金を供給しましょうというのが量的緩和です。

 バブル崩壊の後、2回の金融危機があって、もう景気がどうにもならないという頃に、ゼロ金利量的緩和を行っていたのです。

 ただ、2002年あたりから景気が徐々に回復していったので、まずは量的緩和をやめました。それが、2006年の3月でした。

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 量的緩和をやめて、その後、しばらくしてゼロ金利もやめました。そして、さっきご説明したように0.5%まで政策金利を上昇させました。

 本当は、その後も1%ぐらいまで金利を上げておきたかったのです。しかし、自民党の横槍で上げることができませんでした。

 金利は、「のりしろ」だと思ってください。2008年秋頃、0.5%の「のりしろ」しかない中で、景気後退がやってきました。今は、それをもう、ほぼ使い切ってしまったわけです。

 そうすると、量的緩和を本格的にやるのかやらないのか、ということになってきます。その時に、じゃあ、量的緩和とは実際なんなのか、というと、「マネタリーベース」を増加させることです。

 政府が動かせるお金というのは、この「マネタリーベース」しかありません。

 「マネタリーベース」というのは、現金通貨と日銀当座預金を足したものです。別の言葉で、「ハイパワードマネー」とも呼ばれています。

 それらは、政府、正確に言うと日銀がコントロールすることができます。現金通貨は、日銀がお札を刷れば増えるわけです。日銀当座預金の残高も、さっきご説明したように、オペレーションによって、市場にお金を供給することができます。準備預金をたくさん動かすことによってもコントロールができるわけです。

 もう一つ重要な数字として、M3というものがあります。これは、いわゆる「マネーサプライ」と呼ばれるものです。昨年までは、M2+CDという表記でした。M2は現金通貨に預金を足したもの、CDとは譲渡性預金のことで、Certificate of Depositの略です。

 M2+CDとM3の差は、「ゆうちょ」を加えたことです。ゆうちょが民営化したことによって、通貨の統計を変えて、M3となったのでしょう。

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 以前もお話しましたが、日銀はM3をコントロールすることはできません。みんなの預金を政府がコントロールすることはできませんよね。

 景気が良くなると、マネーサプライが膨張します。それはなぜかというと、企業がお金借りたいとか、民間の人がお金を借りて家を建てたいだとか、景気がよくなりそうだから、お金を借りても大丈夫ということになるからです。

 景気が悪くなると、マネーサプライが減少してきます。資金需要がなくなるからです。こうしたときに、日銀がマネタリーベースを増加させることによって、資金の流れを良くし、景気に刺激を与えようとするのです。

 この表で、マネタリーベースが、2006年はマイナス18.6%と出ているのは、量的緩和をやめたからです。景気が良くなってきたので、景気刺激策のためにじゃぶじゃぶにつけていたお金を絞り始めたのです。

 ここ数カ月、この数字は増加してきています。それは、景気が悪くなってきて、ゼロ金利に近くなってきたので、資金を市場に行き渡らせないといけなくなったからです。

 景気が悪化すると金回り(お金の循環、「流通速度」ともいう)が悪くなりがちです。そういうときに市中の資金がひっ迫すると銀行から貸出先へのお金が回らなかったり、場合によっては取り付けになったりすると困りますから、資金を供給するという意味で日銀はマネタリーベースを増加させるのです。具体的に言うと、資金が余って日銀当座預金の残高が増加するくらいに資金供給を増加させるのです。

 先ほど説明した量的緩和の時は30兆円でしたが、半年ぐらい前までは7兆円ぐらいに日銀当座預金残高を誘導していました。

 今見ていると、10〜11兆円ぐらいに誘導しているようです。これは毎日、日経新聞に出ています。

 ただ、M3はそれほど反応していません。これが本格的に増え始めると、資金需要が増えてきたということなので、景気が良くなってきたサインです。貸出しが増えると、その一部が預金として置かれるからです。置かれた預金がまた貸出しに回り、その一部が預金で残り、またその一部が貸出しに回るという、好循環が生まれるのです。

 今は資金需要が十分にはないので、設備投資などをしません。ただ、延命のための資金は必要なので、それは少し増えています。しかし今は、みんなが設備投資するほど資金が必要ということはありません。

 ちなみに、バブルの頃はマネーサプライが2桁レベルで増えていました。伸びすぎでした。みんな、お金が欲しくて、それを設備投資に回して、景気がいいから、お金の循環がいいのです。お金の流通速度(velocity)が速いと言います。金回りがいいということです。
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 今は、景気が悪いので、流通速度が遅いのです。だから、マネーサプライも増えない、という状況です。

 日経新聞の景気指標に、「新発10年国債利回り」と言うものが出ています。これが、いわゆる長期金利です。長期金利は需要と供給によって決まります。だから、景気が良くなってくると上がってきます。今は、景気が良くないので、1%台の前半になっています。これは短期金利政策金利)を低めに誘導していることとも関係しています。

 ただし、注意しないといけないのは、日本もアメリカもそうですが、景気刺激のために、赤字国債を増発しすぎると、需給の関係で金利を高くしないと国債を買ってもらえなくなる点です。あまりに赤字国債を出しすぎると金利が上昇し始めるということもあるのです。

 アメリカには、若干その傾向が出ています。「10年国債利回り」を見てください。一時期2.22%まで下がっています。それが、2009年2月で 3.01%まで上昇しています。これは、実は、もうなりふり構わず2兆ドルもの景気刺激策をとるということで、ファイナンス(資金調達)しないといけないので、国債の大増発があるだろうということで、金利が上がっているのです。

 投資家たちは、価格変動リスクや為替リスクがあるため、一定額以上の米国債を抱えたくないので、いらないという話になると、金利を高くしないと買ってもらえなくなります。(つづく)