コールレート翌日物

日経 BPnet

日本銀行がオペレーションしている数字

 金融指標で大切な数字は主に6つあります。月曜日の日経新聞をお持ちの方は、景気指標の面を開いてみてください。まず、上から3段目の右から4つの数字。「M3」「マネタリーベース」「コールレート翌日物」それから「新発10年国債利回り」。次に4段目の左から2つの数字、「銀行計貸出残高」「国内銀行貸出約定平均金利」。この6つです。

 まず、この「M3」「マネタリーベース」「コールレート翌日物」「新発10年国債利回り」の4つについてお話したいと思います。

 結論から言うと、これらの数字はGDPや在庫率指数ほどの大きな変化がありません。しかし、よく見てみると微妙な変化があるのです。

 一番分かりやすい数字からご説明しましょう。それは「コールレート翌日物」です。(日経新聞の景気指標には、上から3段目の右から2つ目の欄にあります)この数字が何を表しているか、ご存じでしょうか。

 コール市場というのは、主に銀行がお金を貸し借りする市場のことです。いわゆる、短期金利市場と呼ばれているものです。

 銀行には、預金がたくさん集まり資金が余剰となりやすい銀行と、貸し出しがたくさん出て資金不足となりやすい銀行とがあります。一般的に言うと、地方の銀行は資金余剰となりやすいのです。企業がそれほどないからです。例えば、地方の信用金庫などは、「預貸率」といって、預金に対する貸し出しの比率は低いことが多いのです。

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 一方、都会を中心に展開している大銀行などは、借り入れをする企業がたくさんありますから、資金不足となりがちです。

 このような状況から、銀行の中でも資金の過不足、つまり、資金が余っているところと足りないところが出てくるわけです。

 それからもう一つ、銀行ではお金が足りなくなる要因があります。それは、預金の一部を「準備預金」という形で、日本銀行(以下、日銀)に預金を置かなくてはいけないと決められています。

 銀行は、預かった資金を貸出しや国債の購入などでできる限り運用したいのですが、そうすると預金者からの急な引き出しに応じられなくなることもありえます。もし、銀行が預金引き出しに十分応じられないとなると、「取り付け」騒ぎにもなりかねません。そのため、準備預金を日銀に置かせることによって、銀行が預金者からの引き出しに応じられるようにしているのです。

 世の中から資金をたくさん吸い上げたい時は、日銀は預金に対する準備預金の置く率(「預金準備率」)を高くします。逆に、資金を世の中にたくさん供給したい時はこの率を引き下げるのです。

 いずれにしても、日銀は銀行に「預金のうち一定率のお金を日銀に置きなさい」と命令しています。それを置かないと、銀行は日銀から業務を許可されなくなります。

 しかし、そうすると都会の銀行など貸し出しの多い銀行は資金が足らなくなることがあります。それを他の銀行から借りてくる市場のことを、コール市場と言うのです。

 コール市場には、期間が決められています。一番短いものですと、半日だけ資金を貸し出してくれるという半日物(日中コール)です。その次に短いのは、一日だけ借りるという翌日物です。これは「オーバーナイト」と呼ばれています。

 その金利が「コールレート翌日物金利」と呼ばれているものです。なぜ、これが景気指標に載っているかというと、日銀が調整しようとしている短期金融市場の金利は、実はこの数字だからです。

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・“政策金利”とは

 右の表は、「コールレート翌日物」のデータです。2009年1月は0.120%、2月は0.111%となっていますね。これは、日銀が毎日、短期金利市場の資金量を調整することによって、この0.1%になるように誘導しているのです。

 「コールレート翌日物」の取り手が多くなると需給の関係で金利が上昇します。すると、日銀は資金を供給し、金利を0.1%に限りなく近づくようにします。逆にこの数字が下がると、資金を吸い上げるようになります。

 このことを、“オペレーション”と呼びます。銀行が持っている手形を買ったり売ったりして、資金の量を調整することによって、「コールレート翌日物」の金利を限りなく0.1%に近づけているのです。

 いわゆる“政策金利”と呼ばれるものは、この「コールレート翌日物」なのです。

・今は、「公定歩合」がなくなった?

 以前は、公定歩合というものがありました。公定歩合とは、日銀が銀行に貸し付けを行う時の金利のことです。公定歩合を変えることによって、短期金融市場を調整していました。

 今は、公定歩合というものがありません。正確に言うと、あるのですが、それを金融市場の主要な調整の手段にはしていないのです。だから、日銀が政策金利を0.1%に変えた時、公定歩合も動かしたと思うのですが、日銀が発表している記事を見ると、正確には公定歩合とは言っておらず、「補完的貸付金利」という呼び方をしています。
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 補完的貸付とは、金融機関の資金繰りが厳しくなった時に、金融機関が持っている国債を担保に無条件でそれを貸し出すことです。その金利を、「補完的貸付金利」と呼んでいます。少し難しくなりますが、欧州の「ロンバート貸付」にならった制度です。これが、いわゆる公定歩合です。

 だから、もちろん公定歩合も短期金融市場の調整手段としては使っていないわけではないのですが、主に「コールレート翌日物」を政策金利として金融市場調節の主なターゲットとしているのです。つまり、短期金融の一番大きなポイントに置いているのです。

 基本的なことですが、日銀は、景気が悪くなると金利を下げます。景気が良くなると金利を上げます。

 「コールレート翌日物」の表を見ると、2007年度から2008年9月頃まで、およそ0.5%が長く続いていましたよね。この時は、0.5%前後を政策金利にしていたわけです。そして、景気が悪くなりはじめたので、その次に0.2%に下げました。それでもダメなので、0.1%に落としたのです。

 ここで、一つ理解しておかなければならないのが、金融当局である日銀は、長期金利を操作することはできません。金利の操作は、この「コールレート翌日物」だけをやっているのです。

 ここが始点になっているので、これより長い金利も変わっていくだろうということです。ただ、長期金利は、需要と供給の関係から決まってくるので、日銀は直接にはオペレーションができません。